ふくしまは、今日もそれなりに長閑です

福島県のどこかに住んでいる、平凡な主婦の福島への愛にあふれたブログです

腹と頭皮と漢(をとこ)と女(をんな)

ヒトの進化 ~そして伝説へ~

 

「知ってっか?うた、男っちゃ(男って)『0』から『し』になんだぞ!」

「よぐ分がんないよ兄ちゃん!」

 

はるか遠い遠い昔、兄ちゃんが教えてくれたこと。

 

非常にデリケートな内容を含みます。不快に思われた方には心よりお詫び申し上げます。

  

私には2つ上の兄貴がいんだっけ。

完全な放置子だった私達は、放置子だからこその自由をめいっぱい謳歌してて、朝から晩まで外で遊びまくってたんだっけ。

正確には友達がいなかった私が、兄ちゃんとその友達の遊びにくっついて歩いてた感じなんだけども。

兄ちゃんもその友達も、誰も何も言わずに私を遊びに混ぜてくれてたっけね。

本当は嫌だったんだろうなあ。ごめんない。ありがとない。

 

あっちゃこっちゃ(あっちこっち)に秘密基地を7つ作り、朝から基地のパトロールをしたり、台所からコッソリ煮干しを1本持ち出して、野良子猫にあげたり(本当はしてはいけない事です)、「今日はごっぞ(ご馳走)だー!」とはしゃいでベニマルまで繰り出して、建物の裏側の巨大ダクトから流れる美味しそうな匂いにスーハーして幸せを感じていたり。

昔の子供って、すごい距離も平気で歩くよね。

今はもう無理だわ。歩がんに。

なんだか、「あるって」って変換できないんだね。「歩いて」かあ、「あるって(歩って)」って標準語だと思ってたわ。

 

そんな感じで常に兄ちゃんに遊んでもらってて、兄ちゃんの言う、色んな事を全部信じて生きてたわけさ。

家では好きなテレビは見せてもらえないし、学校では先生からも同級生からも相手にしてもらえてなかったし、親も構ってくんないし、情報源が無かったからさあ。

学校の先生は怒鳴るわ殴るわ、面と向かってハッキリ「お前嫌いだ」って言ったりさ、そりゃ暗くて可愛くない子供だったけどさ、昭和だからってちょっと酷いよない。ぶーぶー。

 

後から聞いた話だと、兄ちゃんもイジメられてたんだってね。

兄ちゃんも色々と辛かったのに、こんな妹をいつも守ってくれてありがとない。

 

んで、 

f:id:fukunodo:20200519193206p:plain

 

うちの家系は皆、毛深いのよ。

特に男はわさわさのもさもさなの。もっさもさ。わっさわっさ。

 

私は女だからまだマシな毛量だったものの、思春期にはそれはもう悩みに悩んで、聞くも涙、語るも涙の苦労をしましたねえ。ええ。

父さんのスッパスッパのT字カミソリを使って、剃って剃って乙女の肌をカサブタまみれにしたり、母さんの毛抜きを使って、抜いて抜いて毛嚢炎になったり、わげさ(うちに)あったガムテープを腕に貼って貼って、気合い入れて剥っぱがしても全然抜けず、ヒリヒリ赤くなっただけで終わったり、リウマチのばあちゃんをお風呂に入れまくって貰ったお小遣いで脱色剤を買って、脱色してして金色の腕毛がさらさら風になびいたり、そんなこんなで大人になってからローン組んで全身を永久脱毛したんだべさ。はーサッパリ。

 

今って脱毛はお安くできんだねえ。

私の頃はだいぶ安くなったって言わっちたけど、そんでもローン組まないと全身やるのは難しかったなあ。

でも女の身には、そんくらいお金かけても惜しくないくらいの悩みでしたのよ。

 

んで、時代は戻ってまだそんな毛の悩みに振り回されることのない、つるっつるのぷるんぷるんの小学生時代、弾ける笑顔で兄ちゃんが言ったんだわ。

「知ってっか?うた、男っちゃ(男って)『0』から『し』になんだぞ!」

「よぐ分がんないよ兄ちゃん!」

得意げな兄ちゃんいわく、男とは進化する生き物なんだそうな。

何も無かった状態から成長に従い『0』になり、そこから更に進化して『し』になると。

 

そう。それは『毛』。

 

もちろん全員がそんな進化をするわけがないということは今は理解できるけどね、なにしろ激狭な世界に生きている兄妹だったもんで、よその世界を知らなかったのよ。

親も親戚のおんちゃん達も、皆してわっさわさなんだもん。わっさわっさ。

先生はどうなってんだかよく分かんねし。

男は皆そうなるのが普通なんだと思ってた子供時代。

 

つるっつるのぷるんぷるんの兄ちゃんも、いつか『0』になり『し』になり『U』になるのだと覚悟してたらしい。

だってそれが『男』の道だから。『漢(をとこ)』の道だから。

 

んだらば、『漢(をとこ)』の道を行ってみっかい?

まず髪の毛ね。そして眉毛にまつ毛に鼻毛におヒゲ、下に下って胸毛にみぞおち毛、皆が大好きギャランドゥー、更に下ればあらイヤだ、デンジャラスゾーン毛、ヘアピンカーブでプリプリおケツ毛、腰毛に背中毛、もひとつ加えて肩のあたり毛、そして戻るの髪の毛へ・・・。

毛がゲシュタルト崩壊

 

兄ちゃんいわく、これが『0』。

そしていつかはオデコがあがり、『し』の時代へ。タイプによっては『U』になると。

 

「そうだなあ、父さんは『し』と『U』の間ぐらいだなあ。でも持ちこたえてる方じゃねえかなあ」

顎に手を当て眉根を寄せ、遠い目をしてそう呟いた、あの日のつるつる兄ちゃん。

アル中で、瞬間湯沸かし器(すぐキレる)の通り名を持ち、触れるもの皆スッパスッパに傷つけると恐れられた程の『漢(をとこ)』が、寝起きに正座して枕についた抜け毛を1本1本丁寧に拾ってた、背中を丸めたあの日の父さん。

右手でつまんで、左の掌にそっと乗せてたあの日の抜け毛。

それを見ていた、スッパスッパに真っ平だった、私のあの日の腹肉。

 

それから数年が経ち、私がカミソリと流血と炎症と格闘し始めた頃、お年頃の兄ちゃんは、

「あるうちに色々いじってやる!いじってやる!!」

と宣言し、毎日鏡の前でプシュー!シュー!シュワワワワ!・・・ブオオー!となにやら色んな音を響かせて、へ・・・不思議な髪形を作り上げてたっけね。

 

なんかこんな感じだったような。

f:id:fukunodo:20200525223602p:plain

んーとね、仙道君みたいだったり、花輪君みたいだったり、いかんとも形容し難い何かだったり。

毎日毎日髪の毛こねくり回して色んな髪形しまくって、最終的には和田アキ子に落ち着いたっけね。

キューティクルつやっつやの。

どんな髪形だってカッコいい兄ちゃんだったよ。

兄ちゃんが和田アキ子的髪形に近づきつつあった頃、父さんがまた瞬間湯沸かし器ぶりを発揮してキレ始めたのを、鼻で笑ってあっさり止めてくれたね。

あの時の父さんの、愕然とした横顔は今でも覚えてるわ。

思い出すと何故かちょっと切なくなるけど。ちょっとだけね。ちっとちっと。

 

ああ、そういえばこの頃もまだ、私の腹は真っ平。

だんだん兄妹それぞれの世界が広がって、毛の成長と共に尾崎豊的世界に行ったり帰ってきたり、また行ったり抜いたり剃ったりドライヤーあてたりお互いに忙しくて、あんまり兄ちゃんと喋んなくなったっけなあ。

 

このあたりはダイエットにも目覚めっちまってね。

家系的にね、中年になると漢(をとこ)は『し』で、女(をんな)は『ダルマ』になんのよ。主に腹が。

なんなのこのサラブレッド。

  

「おめーもハゲるわ」これ兄ちゃんが言われた言葉。

「おめーもまん丸になるわ」これ私が言われた言葉。ちょっと優しい言い方?

 

「ヤツら(子供達)がいっから(いるから)出ていがんに(いけない)」これ母さんの言葉。

 

んなの頼んでねえわあああああ!!とグレて、「悪人」の妻夫木聡的金髪になってた私は、こんなダルマに絶対なんねえ!と心に決めてダイエットに勤しんだんだっけ。

育ち盛りなのに、1日の食事が小っちゃいオニギリ2個だけっつう極端な食生活でさ、ガリガリだったわ。バカだねえ。

 

そういえば、なんでこんなに貧乏なのに母さんは太ってんだろう、私らに隠れて旨いもの食ってんじゃねえかって疑ってたっけなあ。

昼も夜も寝ないで働いて働いて、働き通しでお腹空いて、夜中にオニギリいっぱい食べてたんだよね。またオニギリ。やっぱり親子。

田舎あるあるで米は格安で手に入っからね。

思えば、いっつもご飯のおかずは私らにくれてたなあ。

クソババアとか言って本当にごめんない。

あの時の母さんの、黙って茶わん洗ってた背中もずっと、切なさと共に焼きついて残ってんだよ。

どんな顔してたんだろうって思うと、今でもキューッてなるんだ。

 

でも、でもね・・・

 

ー母さんのことは大好きだけど、私、ダルマにはなりません。ー

 

そう固く誓った、3日前。

3日前から腹筋頑張ってます!今度こそ!今度こそホントだって!やっからちゃんと!

なんかね、私ね、小太りではあるんだけど、ダルマではないんだわ。

でも、でもね、腹がね、2段とか3段とかいうよりも、なんつうか、ちょうちん腹?的な?突然変異?

なんでちょうちん?バカにしてんの?覚悟してたのとなんか違くない? 

 

「なんだその腹、ケンカ売ってんのか(笑)」これはるか昔の彼氏の言葉。

ええ。ちょうちん腹です。可愛いでしょ。

つうことで、私は『漢(をとこ)』の道に敬意を払って生きていこうと思います。

なので、私はオバちゃんだからもういいけど、せめて若い『女(をんな)』の子には腹だの足だのの太さをいじらないであげてくれると嬉しいな。

 

毛根の話と体重の話は、同じぐらいの比重なのかしら。

腹と頭皮は、愛し合うことはできるのかしら。

その間には、深い深い溝があるのかしら。父さんはどう思ってた?

 

父さん、父さんのあの抜け毛、どうしたんでせうね?

父さん、天国でもお酒をかっくらってんでせうか。

父さん、兄ちゃんは踏ん張ったよ。

『0』のままだよ。いいオッサンになったけど、『し』にも『U』にもなってないよ。

わっさわっさが、ふぁさふぁさになったぐらいだよ。

父さん、だんだん父さんがそっちに行った年に近づいてきたよ。

私ら兄妹も、立派な『0』と『ちょうちん』になったよ。

ちゃんと、『漢(をとこ)』と『女(をんな)』の道を歩けてるんでせうか?

父さん、苦労かけた分、母さんのこと長生きさせてね。絶対だよ。

 

「こんなに抜けたぞ!」

左の掌に乗せた抜け毛を見せてきた、あの日の父さん。

なんでちょっとだけ自慢げだったの?

 

ねえ父さん、うちの父ちゃん(旦那)が、最近毎日、

「ハゲたああ!もうダメだああ!カツラ買ってくれえええ!」ってうるさいんだけど、ちょっと薄くなったぐらいで全然ハゲてないんだよ。

「ハゲたって、顔がカッコいいんだから大丈夫だよ!ねえチビ太郎(人間)?」

「え?ああ、うん、いんじゃない(上の空)」ってやり取りを毎日してんだけども。

ねえ父さん、この慰め方で合ってるんでせうか?

 

全て、朝ドラ「エール」の裕一君のイントネーションで読んで頂ければ幸いです。